白血病タイピング検査概論

7. 白血病タイピングとマーカー

白血病タイピングとは、抗体パネルを用いて、造血器腫瘍の免疫表現型病型診断を行うことである。造血器腫瘍は正常細胞の分化段階と同一の抗原を示す場合と、通常では発現しない異常抗原(aberrant marker)を発現する場合とがある。異常抗原の発現は疾患特異的なことが多く、治療後のモニタリングとして残存腫瘍の有無の同定に有用である。


(1)急性白血病

急性白血病の分類は、FAB分類を基本とし、普通染色による塗抹標本の形態的特徴の診断を中心に、ペルオキシダーゼ染色やエステラーゼ染色により診断される。
一部の白血病亜分類の時に、細胞表面マーカーの解析が必要とされてきた。
しかし、実際は細胞表面形質の検索が腫瘍細胞の帰属の決定に重要な役割を果たしており、WHO分類では、すべての造血器腫瘍の免疫表現型が記載されている。
表14に急性白血病のFAB分類における表面形質の判定結果を示した。
T-ALLの診断には、CD19などのB細胞系やCD13の骨髄球系のマーカーが陰性で、CD2、CD5、CD7の未熟から成熟T細胞に出現するマーカーを発現する。
B-ALLの同定にはCD19、CD20、CD10の検出が必要でCD13/CD33(-)で診断する。
AMLの診断はペルオキシダーゼ染色で病型を決定できるが、一部ペルオキシダーゼ染色陰性例の診断にはCD13、CD33の検索が重要である。
単球系であるM4、M5はHLA-DR+/CD4dim+/CD13+/CD33+/CD14+のことが多い。
M6は、HLA-DR+/CD13+/CD33+/CD235a+、M7はHLA-DR+/CD7+/CD13+/CD33+/CD41+/CD61+のことが多い。
また、異なる系統の抗原を同時に発現するbiphenotype例もある。

近年、フィラデルフィア染色体陽性の急性白血病の頻度が増加し、予後不良因子として位置付けられているが、POX陰性で、免疫表現型はB-lineageとMyeloid-lineageのbiphenotypeを呈する症例が多いのが特徴的である。
骨髄系のマーカーでは、8;21転座型AML:M2は、CD13/CD33/CD34/HLA-DRの骨髄マーカーとともにリンパ系マーカーと思われているCD19を呈するのが特徴的であり、一方、15;17転座型のAML:M3では、CD13/CD33/CD38のみ陽性で顆粒球系細胞が本来有するHLA-DRが陰性となるのが特徴的である。
こうして通常発現しない表面マーカーなどから病型診断することも可能となってきた。
AML:M1ではCD7/CD13/CD34/HLA-DRのマーカーを呈する群や、CD56/CD13/CD33のNK/骨髄系ハイブリッド群なども提唱されている。
このように正常の分化とは異なるマーカーを発現する腫瘍細胞の存在が明らかになってくると、これらの特異なマーカーを有する腫瘍細胞の治療後の残存に関して同定することが容易となり、CD45/SSCゲーテイング法を併用することにより、1%以下の微小残存腫瘍(minimum residual disease : MRD)の診断までもが可能であると報告されている(表15)。
WHO分類では、核型診断や遺伝子診断が必要とされているが、いずれも結果が出るまでに時間がかかる。
その点、細胞表面形質の分析は迅速性に優れ、免疫表現型から染色体異常が想定できる病型も存在し、表面マーカー検査の有用性は高い。以下に急性白血病の主な症例を提示する。

表14 急性白血病の細胞表面マーカーの判定基準
CD 急性リンパ性白血病(ALL)                
T系 B系
L1、L2 L1、L2 L3 M0  M1、M2 M3 M4 M5 M6 M7
CD1a +/-     -             
CD2 +     -             
CD3 -/+ -  -  -  -  -  -  -  -  - 
CD4 -/+ -  -  -  -  -  -/+  -/+  -  - 
CD5 +/-  -  -  -  -  - -  -  -  - 
CD7 +  -  -  -  -/+  - -/+  -/+  -/+  + 
CD8 -/+  -  -  -  -  -  -  -  -  - 
CD10 -/+  +  +'/'-' -  -/+  -  -  -/+  -  - 
CD13 -/+  -/+  -  +/-  +  +  +  +/-  +  + 
CD14 -  -  -  -  -/+  -/+  +/-  +/-  +/-  '-/+ 
CD19 -  +  +  -  -/+  -  -  -  -  - 
CD20 -  -/+  +  -  -  -  -  -  -  -
CD22 -  +  +  -            - 
CD23 -  -  -  -            - 
CD33 -  -  -  +/-  +  +  +/-  +/-  +  + 
CD34 +/-  +  -/+  +/-  +/-  -/+  +/-  -/+  +   -/+
CD38   +/-  +/-  +/-  +/-  +/-      +/-   
CD41 -  -  -  -  -  -  -  -  -   +
HLA-DR -  +  +  +/- +/-  -/+  +  +  +   +
CD56 -  -  -  -/+  -/+  -/+  +/-  +/-  -   
CD235a:GPA -  -  -  - -  -  -  -  +   -

表15 急性白血病の免疫学的マーカー診断
報告されているaberrant markerの有用性


(2)リンパ系造血器腫瘍

リンパ系造血器腫瘍の診断は、末梢血、骨髄、リンパ節をはじめ、髄液、胸腹水など腫瘍が浸潤しているあらゆる検体を用いて診断が要求される。
形態学的特徴を呈するリンパ系腫瘍もあるが、細胞表面マーカー検索が究めて有用で診断には不可欠である。

(A)T細胞系(表16)
T細胞系関連抗原としては、CD2、CD5、CD7が用いられる。
CD2のT細胞特異性は比較的高いが、T細胞性悪性リンパ腫は、表面マーカーの解析のみで証明することが困難なこともありTCR遺伝子解析を併用することもある。
成人T細胞性白血病は、CD25が高頻度に発現される。
CD2+CD3-の腫瘍はLGL(large granular lymphocyte)を呈するNK(natural killer)細胞に由来すると考えられ、CD16、CD56、CD57のいずれかが陽性となる。
Tリンパ系腫瘍の代表的な形態を写真3に示したが、形態だけでは診断に苦慮すると思われる。

表16 T細胞性腫瘍マーカー
CD TLBL TPLL  LGL  MF  ATL  ALCL 
CD1a +/-  -         
CD2 +/-  +  +  +  +  +/- 
CD3  +  +  +  +  +  -/+ 
CD4  +/-  +/-  -/+  +  +  +/- 
CD5  +/-  +  +  +  +  -/+ 
CD7  +  + -/+  -/+  -/+  -/+ 
CD8  +/-  +/- +/-  -/+  -  -/+ 
CD16  -/+    +       
CD25  -    -  -  +  +/- 
CD56      +/-    -   
CD57  -/+    +/-       

TLBL: T lymphoblastic lymphoma, TPLL: T prolymphocytic leukemia, LGL: lage granular lymphocyte leukemia, MF: mycosis fungoides, ATL: adult T-cell leukemia/lymhoma, ALCL: anaplastic large cell lymphoma.

写真3 T/NK細胞系腫瘍の代表的な形態

(B)B細胞系(表17)
成熟B細胞性腫瘍は、CLL関連疾患や骨髄腫や悪性リンパ腫など多彩であるが、リンパ芽球性リンパ腫と骨髄腫を除く大部分は細胞表面にイムノグロブリンを発現しており、CD20などの検索により同定される。
CD5+/CD23-はMCL(mantle cell lymphoma)、CD5-/CD10+はFCL(follicular center lymphoma)またはBL(Burkitt type lymphoma)であり、B-CLLのCD5+/CD23+と鑑別可能である。
HCL(Hairy cell leukemia)はCD11cの陽性率が高くCD5-/CD10-でありCD103、FMC7が陽性である。骨髄種は形態的に鑑別が可能であるがCD19-/CD20-/CD56+の症例が多く、CD38は強陽性に出現し、陽性率も高い。

Bリンパ系腫瘍の代表的な形態を写真4、写真5に示した。
形質細胞は形態的判別が比較的容易だが、やはり形態だけでは診断に苦慮すると思われる。

表17 B細胞性腫瘍マーカー
  B-LBL  B-CLL  MCL  FCL  MZL  HCL  DLBL  BL  MM 
CD5    +  +  -  -  -  +/-  -   
CD10  +/-  -  -  +  -  -  +/-  +   
CD11c    +  -  -  +/-  +       
CD13  +/-                 
CD19  +  +  +  +  +  +  +  +  - 
CD20  -/+  +  +  +  +  +  +  +  -/+ 
CD22  +  +  +  +  +  +  +  +  - 
CD23    +  -  +/-  -  -    -  -/+ 
CD25      -/+  +    +       
CD33  +/-  -               
CD34  +/-  -               
CD38    -/+  -/+  -/+    -/+      ++ 
HLA-DR  +  +  +  +    +  +/-  +  -/+ 
CD56            -      +/- 
CD103  +  -        +       
FMC7    -/+  +      +       
Sig  -  +  +  +  +  +  +/-  +  +/- 

B-LBL:B lymphoblastic lymphoma, B-CLL: B chronic lymphocytic leukemia, MCL: mantle cell lymphoma FCL: follicular center lymphoma, MZL: marginal zone lymphoma, HCL: hairy cell leukemia, DLBL:diffuse large B-cell lymphoma, BL: Burkitt's lymphoma, MM: multiple myeloma.

写真4 B細胞系腫瘍の代表的な形態(Ⅰ)

写真5 B細胞系腫瘍の代表的な形態(Ⅱ)