白血病タイピング検査概論

3. 測定方法

造血器腫瘍細胞表面抗原検査に関しては、2003年にJCCLS FCM-WGから「フローサイトメトリーによる造血器腫瘍細胞表面抗原検査に関するガイドライン」1)が策定されており、抗体の選択、試料調製方法やデータ解析などについて記載されている。
造血器腫瘍細胞表面検査においては、急性白血病や慢性白血病あるいは悪性リンパ腫の解析など、それぞれの疾患ごとに試料調製を行い解析パネルの組み方も工夫する必要がある。
また、これらの造血器腫瘍細胞の表面抗原を適切に解析するためにはゲーティング方法が極めて重要である。
本稿では、ガイドラインの内容に即した方法を紹介することを主とするが、抗体の組み合わせ方などについては、私的な方法を紹介する。


3-1. 検査材料

検査材料としては、末梢血、骨髄血、胸水・腹水、脳脊髄液やリンパ節生検材料など腫瘍細胞が浸潤する可能性がある材料であればすべて検査の対象となる。
末梢血や骨髄血の場合は、ETDA、ACDやヘパリンなど抗凝固剤として使用する。
しかし、ヘパリンはPCRを阻害するので、遺伝子検査と共体にする場合は注意が必要である。
リンパ節の生検材料では抗凝固処理を行う必要はない。一般的に胸水や腹水は抗凝固剤を必要としないが、末梢血液が多く混入している材料では抗凝固剤を必要とする。


3-2. 形態観察による腫瘍細胞比率の把握

腫瘍細胞の割合は、検査材料の種類とは関係なく検体によって様々である。
例え同じ時に採取された骨髄血であっても、形態観察用に吸引された骨髄血と染色体分析や表面マーカー解析用に吸引された2度目の骨髄血では、末梢血の混入によって細胞数や腫瘍細胞の比率が大きく異なることも珍しくない。
そのため、表面マーカー解析を行う場合(外部委託する場合も含む)は、検査材料中の腫瘍細胞比率を把握(塗抹標本を作製)しておくことが大切で結果の解釈も容易にする。
また、外部委託の解析報告が妥当であるか否を判定する材料にもなる。
リンパ節生検材料は、必ず形態観察用と凍結保存用のタンプ標本を数枚作成する。
塗抹標本やスタンプ標本を凍結保存しておけば、表面マーカー解析が不良であった場合にFISHや遺伝子診断の材料として利用することができる。
また、メタノール固定した標本で、ホルマリン固定用の抗体を用い免疫組織染色も可能である(写真2)。

写真2 骨髄塗抹標本における白血病細胞

FCMによる解析に先立って、塗抹標本やスタンプ標本で腫瘍細胞比率の測定や形態観察が行われる。得られた検査材料が少なく腫瘍細胞もわずかしか含まれていない場合には、FCMで表面マーカーを解析できないこともある。そのような場合は、同時に作製しておいた標本をメタノール固定し、ホルマリン固定用の抗体で免疫組織染色を行うことも可能である。


3-3. 腫瘍細胞の形態

FCMによる造血器腫瘍細胞の表面マーカー解析において、腫瘍細胞の形態的特徴を把握しておくことが誤った解析をしないために重要である。
すべての細胞が腫瘍細胞で占められていれば解析も結果の解釈も容易である。
正常細胞が混在する場合には、形態的特徴から腫瘍細胞が散乱光サイトグラムのどの位置に分布するかを推定できればより正確な解析につながる。
FCMの散乱光ドットプロットは、細胞の大きさ、核の形状、顆粒の有無などを大まかに分別できる。腫瘍細胞の大きさがリンパ球に比べてどの程度かを把握しているだけでも有用である(図2)。

図2 細胞形態とCD45/SSCサイトグラム

CD45は成熟度の指標となり、CD45強発現のリンパ球に対して幼若な芽球細胞はCD45low+である。SSCは細胞内部構造の複雑さを反映し、APL細胞ではSSCに広がりのある特徴的な分布図を示す。芽球の大きさはリンパ球の大きさを基準に考える。


3-4. 検体保存

ガイドラインでは、検体の保存に関して末梢血や骨髄血は18~22℃で24時間以内であれば保存可能であるとしているが、採取後直ちに処理することが理想である。
私的には末梢血や骨髄血を保存する場合は、抗凝固剤の効果を考えなら10%FCS加RPMI1640で2倍希釈して4℃で保存している。
リンパ節は、バラバラにほぐした状態で10%FCS加RPMI1640に浮遊させ4℃で保存している。
しかし、リンパ節を保存すると死細胞率が高くなり腫瘍細胞のみが死滅したという検体の経験もあるので、採取後直ちに検査できることが理想である。


3-5. 細胞数の調整と抗体量

細胞数の調整は使用する抗体量に影響する。
抗体の添付書通りに抗体量を使用すれば検索できる項目が限られてくるので、細胞数を調整し1項目当たりの使用量を減らしてできる限り多くの表面抗原を検索できるように工夫している。
ガイドラインでは細胞数を3~10×103/μLに調整した試料の100μLを使用するとしているので、急性白血病の検体のようにほとんどが腫瘍細胞で占められる検体なら、細胞数を3×103/μLに調整すれば使用する抗体量を規定の1/3量に減らすことができると考えられる。
しかし、腫瘍細胞比率が低い検体では、細胞数を低く調整すると腫瘍細胞を十分測定できなくなり、また、表面マーカー解析に使用する抗体の多くが正常細胞にも反応するため抗体量を減らすことはできない。
自施設で検査を実施する場合、細胞数を常に一定に調整するのではなく、腫瘍細胞の比率に合わせて細胞数を調整すれば経費を下げることが可能と考える。

脳脊髄液のように細胞数が極めて少ない場合は、遠心によって濃縮する。
FCMによる表面抗原解析においては、おおよそ2,000個~5,000個の細胞数があれば1試験管(3カラーであれば2抗原以上)の検索が可能である。


3-6. 材料別の試料調製

細胞数は計算板や自動血球計数装置によってカウントする。
自動血球計数装置では赤芽球を正確に測定できないものや脂肪球の影響を受ける機種もあるのでその性能もよく理解しておく必要がある。
検査材料が末梢血の場合は、リンパ球サブセット検査と同様に調製する。骨髄血の場合はPBSで細胞数を調整した後、脂肪組織やその他の組織片を除去するためにおおむね孔径40μmのナイロンメッシュで濾過して使用する(あらかじめ腫瘍細胞が濾過されない大きさであることを確認しておくことも重要)。
リンパ組織の場合は、スタンプ標本を作製した後、外科用メスやピンセットあるいは注射針を用いて組織を丁寧にほぐした後、おおむね孔径40μmのナイロンメッシュで濾過して使用する。


3-7. PBS

リンパ球サブセット検査と同じであるが、表面免疫グロブリン測定にはヒトAB型血清加PBSを用いることはできない。


3-8. 溶血剤

溶血剤は、リンパ球サブセット検査と同様に固定剤を含む市販の溶血剤やNH4Cl溶液を用いる。
末梢血を全血のまま用いる場合は、リンパ球サブセット検査と同様な方法で溶血するが、希釈した末梢血や骨髄血、胸水・腹水の場合には、含まれる赤血球が少ないのでNH4Cl溶液を用いる。
リンパ節や節外組織などの生検材料で赤血球の混在が考えられる場合は、少量のNH4Cl溶液で短時間溶血処理を行う。
散乱光ゲーティングで解析する場合は少数の赤血球であっても結果に大きく影響する。
あらかじめ作製した塗抹標本やスタンプ標本を観察すれば赤血球の混入は容易に判断できる。


3-9. 生細胞率の評価

死細胞は抗体を非特異的に結合するため、死細胞の多い検体では結果の解釈に苦慮することがある。
そのため、試料調製を行う前に生細胞率の評価を行っておく必要がある。特に保存した検体では必ず必要となる。
トリパンブルーを用い顕微鏡下で生細胞率の測定を行い検体の状態を評価することも大切だが、それよりも生細胞の表面マーカー解析を行うことが重要であるため、FCMで標識抗体と同時に使用でき、死細胞除去も可能なPIや7-AADなどを用いる。(図3)。

また、死細胞を散乱光ゲーティング上である程度除外することもできる。
核酸染色剤による死細胞除去を行わない場合には、散乱光ゲーティングを併用して死細胞の除外に努める(図4)。

図3 検体保存による生細胞率の変化 -リンパ節-

適切に保存した検体であっても保存時間に比例して生細胞率は低下する。検体採取日(Day 0)と比較して1日保存した検体では、単核球領域にPIで染色された細胞(死細胞)が多く存在している(図下段右端)。

図4 散乱光ドットプロット上の死細胞領域

図(a)はリンパ組織の生細胞率を測定した際の死細胞の散乱光ドットプロットを、図(b)は生細胞の散乱光ドットプロットを示す。FCMによる細胞表面マーカー解析において死細胞を解析対象から除外することが重要であり、そのためにPIや7-AADなどの核酸染色剤が併用されるが、散乱光ドットプロット上でも両者をある程度区別できることが分かる(図(c))。


3-10. 吸着免疫グロブリンの処理

リンパ系の腫瘍細胞表面抗原において、クローナリティの判定や病型の分類のために表面免疫グロブリンの測定は不可欠である。
血清成分が共存する検体では細胞表面に吸着した免疫グロブリンを除去する必要がある。
一般的にはPBSや培養液で洗浄することで除去されるが、洗浄操作によっても吸着免疫グロブリンが除去されないこともある。
このような時は、血清成分を含まないPBSや培養液において37℃1時間インキュベーションした後に洗浄することが有効であるとされている(図5)。
なお、図に示すように、吸着免疫グロブリンはB細胞以外の細胞により強く吸着していると考えられるのでB細胞系マーカーであるCD19抗体やCD20抗体を組み合わせることが重要である。

図5 インキュベーションによる吸着免疫グロブリンの除去効果(B-CLL)

表面免疫グロブリンは、洗浄操作によって血清中の免疫グロブリンを除去した後に測定する。しかし、洗浄後によって十分に除去できないこともある(図上段点線丸内)。このような場合は、37℃で1時間インキュベーションした後に洗浄することで除去効果が高まる。しかし、吸着免疫グロブリンはB細胞(CD19+)以外の細胞に吸着されていることが多いので、B細胞の表面免疫グロブリン測定を行う時は、CD19やCD20のようなB細胞特異的マーカーを組み合わせて解析することが最も重要であり効率的である。


3-11. 抗体の注意点

陰性コントロールはアイソタイプの一致した陰性コントロール試料を用意することが望ましいが、ガイドラインでは便宜的に各アイソタイプ陰性コントロール抗体を混合した“プール陰性コントロール”などで代用できるとしている。
筆者も経済的理由から“プール陰性コントロール”を一部使用している(表8 No.7など)。
蛍光標識の選択については、抗原密度が低いと予想される細胞を対象とする場合はFITCに比して強い蛍光を発するPEが推奨されている。
具体的な例としては、急性骨髄性白血病の検索にはPE標識CD13抗体やCD33抗体を、急性リンパ性白血病においてはPE標識CD19抗体を用いる。
なお、染色法に関しては、リンパ球サブセット検査と同様に標識抗体を用いる直接法が推奨されている。