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フローサイトメトリーを用いたヒト精子のDNA断片化(度)解析

精子DNAの部分的な一本鎖/二本鎖切断による断片化は、受精能低下や胚発生の停止を引き起こし、不妊症の原因のひとつと考えられています。この精子DNAの断片化を評価する方法として、Sperm Chromatin Structure Assay(SCSA)があります。SCSA ではヒト精子をアクリジンオレンジ(AO)染色し、その蛍光をフローサイトメーター(FCM)で検出します。AOは、二本鎖DNAの塩基対に挿入し526 nmの緑色蛍光(AO green)を発する一方で、一本鎖DNAに結合すると650 nmの赤色蛍光(AO red)を示す色素です。この性質を利用し、AO染色後のヒト精子における赤色蛍光を検出することで、精子核の断片化・損傷度(DNA fragmentation index: DFI)を測定します。

これまでの精子DNA断片化検査方法では、各種色素等による染色後、顕微鏡下で目視にて観察・計測しており、時間や計測可能な精子数に限りがありました。SCSAでは、FCMを用いることで短時間に大量の精子を計測可能であると同時に、検査実施者間の誤差が減少し、安定した結果を得られることが期待できます。また、SCSAにより得られたDFI は、より特異的にDNA 断片化を検出可能なTUNEL法の結果と高い相関(r=0.8296)があることも示されています。更に、DFIと精子運動率や男性の加齢との関連が報告され、DFI が精子の“質”を表す指標のひとつとして注目されています。

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Methods

ヒト精子のAO染色

  1. 1.5 mLサンプルチューブに90 μ LのTNE buffer(pH7.4)を取り、 10 μ Lの原精液*を添加。
  2. 1. に200 μ LのAcid detergent solution(80mM HCl, 15 mM NaCl, 0.1% Triton X-100; pH 1.2)を加え、酸処理(30秒間)。
  3. 次に、600 μ LのAO solution(6 mg/mL Acridine orange, 37 mM citrate acid, 126 mM Na2HPO4, 1.1 mM EDTA, 150 mM NaCl)を加え、全体をピペッティング。

* 原精液は凍結保護剤等を加えず、検査使用分だけを-80℃にて凍結保存しておく。

FCMによるAO蛍光の検出

  1. AO染色後のヒト精子懸濁液をFCM用のチューブに移す。
  2. FCMを用い、AO greenおよびredをそれぞれFITC(525 nm)およびPC5.5(610 nm)フィルタにて検出。
  3. FITCとPC5.5の蛍光を縦軸と横軸に表示し、AO red の蛍光を指標に精子DNAの断片化(度) (DFI)を測定(下図参照)。

References

  1. Utility of the sperm chromatin structure assay as a diagnostic and prognostic tool in the human fertility clinic. Evenson DP,et al. Hum Reprod. 1999 Apr; 14(4):1039-49.
  2. The predictive value of sperm chromatin structure assay(SCSA)parameters for the outcome of intrauterine insemination, IVF and ICSI. Bungum M, et al. Hum Reprod. 2004 Jun; 19(6):1401-8. Epub 2004 Apr 29.
  3. Sperm chromatin structure assay(SCSA) parameters are related to fertilization, blastocyst development, and ongoing pregnancy in in vitro
    fertilization and intracytoplasmic sperm injection cycles. Virro MR, et al. Fertil Steril. 2004 May; 81 (5):1289-95.

Memo

不妊治療専門施設では、患者さまの貴重な配偶子を用いる性質上、効率よく受精、移植、着床、妊娠につなげるための事前検査を行う必要があります。このような事前検査は、治療を左右する重要な役割を担い、検査結果を参考に患者さまに適した治療を行っています。卵子に比べ精子は数を確保しやすい傾向にありますが、その集団の中でより高い受精、胚発生、妊娠の結果が得られる精子がどのくらい含まれるかという“質”の問題が重要視されています。多くの不妊治療施設では精液所見(精液量、精子濃度、精子運動率、正常形態精子率、白血球濃度)等を、光学顕微鏡を用いて検査しますが、時間や手技的な制限から、検査できる精子の数には限りがあります。FCMを用いるSCSAでは、1 万以上の精子をわずか2、3分で調べられるため、近年その利点を用いたヒト精子の解析が世界的に増加しています。通常、精子のDNAは、精子成熟過程で非常に密に凝縮されるため、外部の影響を受けにくくなります。一方、男性不妊の患者では精子凝縮タンパク質の変性等により精子核が十分折りたたまれず、DNA が損傷しやすいといわれています。SCSAによって示されるヒト精子のDNA断片化度(DFI)が30%以上の場合、人工授精よりも体外受精の方が妊娠率が高いことが報告されています。またSCSAでは、精子形態形成時に精子核が十分に凝縮されなかった未熟な精子をHDS(High DNA stainability)として解析できます。HDSが10%以上の場合、体外受精の方が人工授精に比べて妊娠率が高いことが報告されています。

データ提供:木場公園クリニック リサーチ部 小林 護 先生

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