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ハイスピードフローサイトメーター CyAn™ ADPを用いた9カラーによるMRDの高感度検出

はじめに

急性白血病、特に急性リンパ性白血病(ALL)における微小残存病変(MRD)の検出は、治療のリスク評価および白血病タイピングだけでなく、治療に対する生体の反応プロセスを理解する上でも重要です。
MRDの検出は、主に白血病特異的なIgH遺伝子再構成をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で増幅する方法を用い、その感度は10-4~10-5です。分子生物学的手法は、フローサイトメトリー(FCM)によるMRD検出よりも高感度ですが、手間と時間がかかり、また、かなり高コストとなります。
多くの研究室では、マルチパラメータ フローサイトメトリーによるイムノフェノタイピングを利用したMRDの検出を行っていますが、多くの場合、検出限界はPCRよりも低く、10-3~10-4となります。
フローサイトメトリーは希少細胞の検出に必要な技術的特性があり、さらに、CyAn ADPは、新技術によりFCM-MRD検出の感度、速度、信頼性を高める技術を実現しました。


材料と方法

細胞調製と染色

ヒント
FL1のSYTO16のコンペンセーションを設定する場合は、測定直前に無染色細胞を加え、陰性コントロール細胞集団があるようにしてください。
1×10e細胞のデータを取得するため、リストモードのFCSファイルは非常に大容量になります。そのため、大容量のメモリーを搭載した高速のコンピューターでデータ取得することをお勧めします。メモリーが小さい場合、測定に長時間かかることがあります。

前駆B細胞急性リンパ球性白血病(PBC-ALL)患者から、治療期間中にヘパリン加全血および骨髄を随時採取し、芽球の減少速度および微小残存病変(MRD)を評価しました。
表1のパネルに従い、7×106 ~3×106 個の細胞を、各モノクローナル抗体および核酸染色剤SYTO 16を添加し、穏やかに攪拌後、室温で10分間静置しました。
抗体とSYTO 16の染色後、溶血剤で赤血球を溶血し、300×gで5分間遠心しました。更に、細胞を5mLのPBSで遠心洗浄し、0.5mLのPBSに再懸濁しました。
データは、3×105~1×106個の細胞を取り込みました。


解析とゲーティング

9カラー解析では、各蛍光パラメータの組み合わせの2パラメータドットプロットは、36種類になります。更に、前方散乱光(FSC)および側方散乱光(SSC)、そしてダブレットの細胞を識別するため、前方散乱光シグナルのパルス面積(FS Area)およびパルス幅(Pluse Width)を含めると、すべてのパラメータを表示するには39種類の2パラメータ ドットプロットが必要となります。
これらのドットプロットのうち、サンプルに含まれる残存芽球細胞と他の正常B細胞を識別するのに適した8種類のドットプロットをゲーティングに用いました。階層的ゲーティング(表2)で、それぞれ次の細胞種を定義しています。

表1
  FITC PE ECD PC5 PC7 PB CY APC AOCy7
CD SYTO16 CD10 CD45 CD13/33 CD34 CD19 CD3 CD58 CD20
表2
SYTO16+Doublets- R1 & NOT R6 & NOT R9 Light Purple 16 Shades
SYTO16+ R1 Black 16 Shades
CD19 total R1 & R2 & R3 & NOT R4 & NOT R6 & NOT R9 Green 16 Shades
CD19 normal R1 & R2 & R3 & NOT R4 & R5 & R7 Yellow 16 Shades
CD19 Progenitors R1 & R13 & NOT R2 & NOT R3 Blue 16 Shades
MRD+Blasts R1 & R10 & R11 & R12 & R14 & R15 & R16 & R17 & R2 & R3 & NOT R4 & NOT R6 & R8 & NOT R9 Red 16 Shades
ゲーティング I―CD19+ NCの計数/ダブレット細胞のゲートアウト
図1 ゲーティング I―CD19+ NCの計数/ダブレット細胞のゲートアウト

ゲーティング II―MRD+芽球細胞と正常に再生したB細胞の識別 ALL-BFM 2000治療プロトコール:治療15日目
図2 ゲーティング II―MRD+芽球細胞と正常に再生したB細胞の識別
ALL-BFM 2000治療プロトコール:治療15日目


結果

MRD+芽球ゲート(表2)で定義される残存白血病性芽球細胞は、図2、図3、図4で赤色のドットで示されています。
残存芽球細胞の数は、白血球数(WBC/μL)と、SYTO 16ゲートのR1に含まれる細胞のパーセンテージから算出されます。化学療法開始2週間後 15日目には、骨髄には549個/μLの芽球が残存していました。
さらに2週間の治療を加えた33日目には、残存芽球数は3個/μLとなっています(図4)。15日目と33日目の分析ではゲートの設定を変更/移動していないことに注意してください。

ゲーティング II―MRD+芽球細胞と正常に再生したB細胞の識別 ALL-BFM 2000治療プロトコール:治療15日目
図3 ゲーティング II―MRD+芽球細胞と正常に再生したB細胞の識別
ALL-BFM 2000治療プロトコール:治療33日目


考察

FCMによるMRD検出の感度は、取得する細胞の数と、白血病に関連するイムノフェノタイプの選択(特に正常B細胞と残存する白血病性細胞の識別)に大きく左右されます。9カラー/12パラメータを1本のチューブで測定する今回のアプローチでは、MRD検出の感度と信頼性ともに向上しており、4カラーで染色し3~4本のチューブを順に分析するという従来法の欠点が改善されています。
サンプルを4本のチューブに分ける必要はないため、すべての細胞を1本のチューブできます。その結果、検体中の細胞数が少なくても、1回の測定で4カラーの測定に比べて3~4倍多い細胞のデータを取得できます。さらに、1本のチューブで9カラーの分析を行うことで、MRD芽球細胞の検出に不可欠な多数のパラメータ間の相関ゲートを行うことが可能です。

 

図1
ALL-BFM 2000治療プロトコール:治療33日目

図4 FCM-MRDの結果

図1
ALL-BFM 2000治療プロトコール:治療15日目



謝辞

4カラーのFCM-MRD実験はすべて、Michael Dworzak(オーストリア、ウィーン)、Guiseppe Basso(イタリア、パドヴァ)、Guiseppe Gaipa(イタリア、モンツァ)の各氏が率いるAIEOP-BFM-FCM-MRD研究グループの協力によって成されたものであることをここに示し、深く御礼申しあげます。


寄稿者

Richard Ratei and Leonid Karawajew, University Medicine Berlin, Charite, Campus.Buch, HELIOS Klinikum Berlin,
Robert-Roessle-Clinic, Lindenberger Weg 80, 13122 Berlin,


参考文献

  1. Ratei R, and Ludwig W-D. Flow Cytometry Methods for the Detection of Residual Leukemia. In: Zipf TF, Johnston DA, eds. Leukemia and Lymphoma. Totowa, New Jersey: Humana Press; 2002:1-20.2.
  2. Gaipa G, Basso G, Maglia O, Leoni V, Faini A, Cazzaniga G, Bugarin C, Veltroni M, Michelotto B, Ratei R, Coliva T, Valsecchi MG, Biondi A, Dworzak MN. Drug-induced immunophenotypic modulation in childhood ALL: implications for minimal residual disease detection. Leukemia. 2005;19:49-56.3.
  3. Dworzak MN, Froschl G, Printz D, Zen LD, Gaipa G, Ratei R, Basso G, Biondi A, Ludwig WD, Gadner H. CD99 expression in T-lineage ALL: implications for flow cytometric detection of minimal residual disease. Leukemia. 2004;18:703-708.4.
  4. Veltroni M, De Zen L, Sanzari MC, Maglia O, Dworzak MN, Ratei R, Biondi A, Basso G, Gaipa G. Expression of CD58 in normal, regenerating and leukemic bone marrow B cells: implications for the detection of minimal residual disease in acute lymphocytic leukemia. Haematologica. 2003;88:1245-1252.5.
  5. Ratei R, Basso G, Gaipa G, Schrappe M, Dworzak M, Ludwig W, Karawajew L. MRD-Detection by Multiparametric Flow Cytometry in Childhood Precursor B-cell ALL: Predictive Impact of Early Blast Reduction Kinetics in Peripheral Blood (pB) on MRD-Level in Bone Marrow (BM) at Day 33 of the ALL-BFM2000 protocol. ASH-Meeting. San Diego, USA; 2004.

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