これまで、フローサイトメトリーによる細胞表面抗原分析は、「細胞に抗原が発現しているか否か」、あるいは「試料中に抗原陽性細胞がどのくらいあるか」を調べることを目 的として行われてきました。一方で、細胞表面の抗原発現レベルの定量化(「細胞表面に何分子の抗原が発現しているか」)は、蛍光強度の標準化が困難であるために、蛍光ヒ ストグラムのパターンから定性的に蛍光強度の大小を比較するのみでした。
その後、蛍光量(MolecuIes of Equivalent Solule Fluorochrome;MESF)が既知のラテックス標準粒子が開発され、これを外部標準として、ヒストグラムの蛍光強度を標準化 する方法が用いられるようになりました。しかし、この方法を用いても、用いる蛍光標識抗体のアフィニティやF/P(蛍光色素/抗体タンパク)比が既知でなければ正確な抗原 量は得られず、それらを厳密に管理しなければ再現性のある結果を得ることは困難でした。
近年、フローサイトメトリーで細胞表面の抗原量(抗原の発現量)を定量的に分析できる測定システム MARQUIS法が開発されました。MARQUIS(Molecule And Receptor Quantitation Using Immunofluorescence Standardization)法では、FlTC標識2次抗体を用いた間接免疫蛍光法でサンプルを染色します。また、外部標準として「抗原量」が既 知の標準ビーズを使用します。すなわち、ビーズは蛍光物質を含むのではなく、表面に既知量のマウスlgGがコートされています。
このビ-ズをF/P比が均一な2次抗体で染色することで、標準ビーズの蛍光量から結合抗体量の検量繰を作成することができます。この検量繰に、同じ2次抗体を同じ条件で反応 させたサンプルの蛍光強度をあてはめることで、細胞に結合した1次抗体の量(結合分子数)を求めることができます。
蛍光粒子を用いる方法と異なり、MARQUIS法では、抗体のF/P比の違いによる誤差や、蛍光色素の蛍光波長分布の違いを無視でき、より正確性の高い測定が可能になります。