Ⅱ. 高感度PNH型細胞の検索方法 3
3.好中球の解析
検体は、血算に適したEDTA加血が利用される。また、全血でも測定可能であるが、十分な解析細胞数を確保するため、デキストラン生食法にて白血球を濃縮して用いる。
3-1.染色方法(好中球)
- 白血球浮遊液の作成
EDTA血2mlに6%デキストラン生食1mlとPBSを3ml加えて、37℃・15分間放置。上清の白血球層を採取し300G・5分遠心洗浄、上清をできるだけ除去して混和した白血球沈渣に溶血液5ml加え氷中にて10-15分処理。遠心した白血球沈渣をAlb-PBS にて1x107/mlに再浮遊する(細胞数に合わせて,液量は調整する)。必要に応じaggregated Igによる非特異反応の抑制を考慮する
- CD55,59カクテル免疫染色
試験管に抗体と白血球浮遊液を100μl添加 (4℃・30分反応)
・陰性対照: マウスIgG1 FITC標識抗体 20μl
・sample :CD55,CD59FITC標識抗体 各20μl / CD11bPE標識抗体10μl*
- 洗浄
Alb-PBS 3mlを添加して300G・5分遠心洗浄を、2回繰り返す
- 再浮遊&解析
陰性対照およびsampleにAlb-PBS を1ml加え,FCMにて CD11bの明らかな陽性細胞を5-10万個以上解析する
- ※
- CD235a/CD11b染色について:陰性対照もCD11b染色しても構わない。しかし、CD11b染色した陰性対照の測定後にsamplを測定すると、陰性領域にキャリーオーバーによる細胞が出現することがあるので注意する。
3-2.解析方法(好中球)
- 使用パラメーターは、前方散乱光(FS)、側方散乱光(SS)、Log-FL1、Log-FL2の4つを用いる。
- パラメーターの感度は、FS、SSではリンパ球、単球、好中球の全体が表示できるようにセットし、LFL1、LFL2の感度は陰性対照のリンパ球がfirst decadeに入るようにセットする。
- ディスクリミネーターは、FSにてリンパ球の下限にセットする。
- ゲートは、散乱光サイトグラムにおいて好中球を大まかに選択する。
- LFL1のcut lineは、陰性対照を流し、陽性率0.1%付近でセットする。0.1%付近でセットは、先ずLFL2を1.0chにセットして、LFL1とLFL2が共に陽性の非特異細胞を除外してからLFL1をセットする。
- PNH型好中球の検出は、LFL1とLFL2の2パラメーターヒストグラムにおいて、CD11bが強陽性の細胞集団にウインドウをセットする。小数点以下第3位までの感度が必要な場合は、10万個以上の細胞をカウントする。
白血球における PNH型血球(CD55,59染色)の解析 (健常人)

3-3.解釈と注意点
- 陰性対照について
赤血球の稿で記載したとおり、PNH型血球検索のための厳密な陰性対照は、存在しない。通常のネガティブ・カットラインでは欠損細胞の特異性は高いが、抗原減弱細胞を正確に検出することはできず、抗原減弱細胞の評価は困難となる。このため陰性・陽性の判断は、陰性対照にて適切に行い、割合についてはヒストグラムパターンでの報告を、減弱細胞についてはヒストグラムパターンから症例毎に適宜算出する必要がある。
- 好中球ゲートについて
好中球のゲートは、先ず散乱光サイトグラムによる大まかな顆粒球領域の選択であり、次にCD11b強発現細胞にウインドウをセットして好中球を選択する。散乱光サイトグラムにおいて混入する細胞は、未熟な顆粒球系細胞、好酸球、単球がある。未熟な顆粒球系細胞はCD11bの発現が弱いため、事前に健常人を対照としたCD11b強陽性の局在領域を把握しておく。好酸球は、CD11bが好中球に比べやや弱いが、CD55,59の発現が強く、偽陰性の要因とはならない。骨髄異形成症候群では、顆粒球領域と単球領域の分離が困難となることがある。散乱光サイトグラムで単球が混入した場合には、単球はCD11bおよびCD55,59の発現もやや弱いことから、偽陽性の要因となるのでCD11b強陽性領域のみの解析を行う。なお、リンパ球の中ではNK細胞とCD8陽性T細胞は、CD55はほぼ陰性である。
未熟な骨髄球系細胞を多く含む検体でのPNH型血球(CD55,59染色)の染色性

単球および好酸球におけるCD11bおよびCD55,59の染色性
