次世代セルソーター技術 高速かつ高収率と高純度の実現

 現状の不満点・問題点

 

迅速なソーティングは、ラボの生産性を高め、また分取細胞の生存率を高めます。特にSP細胞やマルチカラーの場合、分取ターゲットの細胞の存在比率は少なく、高速ソーティングでの高い性能(高い収率、高い純度)を要求されます。しかし、現在のセルソーターCell Sorterでは、高速にすると、収率と純度が低下します。1秒間に最高3万個程度で、収率は70%以下です。貴重なサンプルの約3分の1を失い、時間もかかり、生存率や細胞機能の維持に悪影響があります。

 次世代セルソーター技術

次世代セルソーターとは、より速い速度を達成し、さらに収率と純度を犠牲にしないソーターです。1秒間に7万個、1分間で400万個の超高速ソーティングを、約90%の収率で行える次世代セルソーターは、現在のセルソーターと比べて、4分の1以下の時間で、ターゲットの細胞(数)をソーティングできます。そのための条件は、

 

1. 高速ジェットインエアー方式であること

キュベットフローセル方式(正方形または長方形のクオーツフローセルを使用)では、レーザー照射時の流れの幅が長径約250ミクロンから430ミクロンと広いため、サンプル・シース流の流れが遅く(6m/秒程度)、細胞からの蛍光などのシグナルパルスの幅は広くなります。高速時では細胞と細胞の間隔が狭くなり、パルスが頻繁に重なります。重なったパルスは、細胞と正しく識別できず、アボートされ、収率が低下します。培養細胞など大きな細胞の場合は、特に顕著になります。また、流れの断面が大きな長方形から絞り込まれて細い円形になるため、速度とその方向が変化する乱流現象が起こり、ディレイタイムがわずかにずれてソーティングの純度が低下します。高速時はサンプル流が太くなり、顕著になります。クオーツキュベット方式は、低出力レーザー(10から20mW)で蛍光感度が高いという利点はありますが、高速化には致命的な欠点を有します。

一方、ジェットインエアー方式は、中出力のレーザー(50から100mW)を必要としますが、流れの形や幅は変化せず層流で、常時直径70ミクロンと狭く、流れが速く(30m/秒)、パルスの幅は狭くなります。高速時でも細胞と細胞の間隔は比較的広く、パルスが重なり合う頻度は、クオーツキュベット方式の約4分の1程度です。パルス処理回路が数え落としをしなければ、1秒間に7万個の速度で100%の純度と約90%の収率を実現できます。さらに、数年前から、小型空冷固体レーザーの高出力化が急速に進み、ジェットインエアー方式は、クオーツキュベット方式とほぼ同じ蛍光感度を有します。

 

図1. ソーティング速度と収率の違い

ソーティング速度と収率の関係 (シース圧60psi、細胞径が13ミクロンの場合)

図2. 層流と乱流の違い

    
細い円形の流れのまま、速度もその方向も変化しない(層流)。レーザー照射点から液滴形成点までの距離も常に一定で、一定のディレイタイム(高精度)。したがって、純度が高い

  
太い長方形の流れから、細い円形の流れに変化するため、速度と方向が変化する(乱流)。さらに移動距離も細胞の位置により異なるので、ディレイタイムが一定でない(低精度)。高速時はサンプル流が太いので、純度が低い。

 


2. デッドタイムの無い超高速パルス処理技術の開発

従来型のすべてのセルソーターは、細胞の数え落としをしていました。アナログ方式の場合、最速の機種でもデットタイム(次のシグナルパルスを取り込むまでの時間)が、5.5マイクロ秒あったのが原因です。その間のパルスは、処理できず、検出されません。そのため、純度や収率が低下しました。デジタル方式の場合は、毎秒1000万回(10MHz)、つまり0.1マイクロ秒ごとに連続サンプリングするので、デッドタイムが無いように思われますが、実際は、約5万個/秒以上になると、回路全体のスループットの問題でデッドタイムを生じ、数え落としをします。また、デジタル方式は、常に量子化誤差の問題を抱えています。4桁の対数スケール、つまり1:10000のダイナミックレンジをカバーするのに、現在の14ビットのADC(アナログデジタル変換器)では、低解像です。

デッドタイムの無い理想的なデジタル回路を設計する必要があります。高速ジェットインエアー方式の場合、パルス幅が狭いので、毎秒1億回(100MHz)、つまり0.01マイクロ秒ごとにサンプリングする必要があります。かつ20ビット以上の分解能の高いADCを開発して、パルス波形処理をする必要があります。現在のADCは、100MHzで最高16ビットです。技術面でのブレークスルーが必要です。

図3. 次世代セルソーター概念図


3. 1秒間に10万個以上の液滴形成

最後の条件は、単位時間当たり多くの液滴を作ることが重要です。その液滴が少ないと、高速時に1液滴に複数の細胞やデブリが含まれる可能性が高まります。その場合、純度優先モードならば、アボートされ、収率が低下します。貴重なサンプルがソーティングされず、捨てられてしまいます。SP細胞やマルチカラー、MHCテトラマーなどターゲット細胞の含有率%が低い場合は、その傾向は顕著になります。1秒間に7万個の細胞を分取するためには、少なくともその1.5倍の液滴を形成させる必要があります。100psiの高圧を用いて、1秒間に10万個以上の液滴を安定して形成させる必要があります。

また、ターゲットが3つ以上ある場合は、4つの集団を同時にソーティングできる4方向ソーティング機能が、貴重なサンプルを無駄にせずにすみます。

図4. ソーティング例


Side Population Cell(SP細胞)


MHCテトラマー


ヒト染色体

 

 次世代セルソーターMoFlo XDPの開発概要

高圧(最大100psi)で押し出されるシース液を用いて、サンプルの細胞や細菌を幅の狭い層流の中心に流します。細長いスリット形のレーザー光束を、高速(約30m/秒)で流れているサンプル・シース流に直接照射(ジェットインエアー方式)します。生じた散乱光と蛍光を集光します。蛍光はピンホールを通過後、伝送損失のある光ファイバーを用いずに、各検出器に直接導かれます。各検出器のシグナルは、0.01μ秒(世界最速)ごとに、8,388,608レベル(23ビット、世界最高)でデジタル化されます(Dual ADC 特許技術)。1秒間に1億回、シグナルはサンプリングされます。細胞のシグナルパルスの幅は、約1µ秒で、1細胞あたり、100点前後の測定(世界最高)が行われます。非常に狭いパルス幅は、収率に悪影響を及ぼす同時通過によるアボートを最小化します。高速DSP(デジタルシグナルプロセッサー)を用いた回路により、ノイズが除去され、各細胞からのシグナルの面積や幅、高さが超高速演算処理され、最終的には、最大値4,294,967,296の32ビットリニアデータ(従来のセルソーターの18ビットデータに比べて情報量は1万6000倍)になります。高速DSPでログ変換と蛍光補正、分取条件の演算が行われます。32ビットリニアデータは、5桁のログスケールデータに変換することができます(世界初)。コンピューターに各パラメーターが高速転送されます。これらのパラメーターを用いて、解析そして分取の指示を行います。サンプル・シース流は、振動子(最大200KHz)により、液滴を形成します。1秒間に最大20万個形成(世界最高)される液滴に対して、目的の細胞を含む液滴に分取条件に基づいて荷電して、電場中を偏向落下させ捕集します。超高速デジタル波形処理回路により、解析速度100,000個/秒、分取速度70,000個/秒まで、デッドタイムがゼロになり、数え落しを生じないので、高速時でのソーティングの収率と純度が大幅に向上します。

図5. 純度・回収率優先パラレルモード


R2リージョンを左側に2方向ソーティング
純度優先モードと回収率優先モードの併用でソーティング

 


左側1番目のチューブの再解析データ
純度優先モードでR2をソーティング(ターゲット細胞のみが1液滴に含まれるケース)


左側2番目のチューブの再解析データ
さらに同時に回収率優先モードでR2をソーティング(ターゲット細胞と非ターゲット細胞が1液滴に含まれるケース)

 

 今後の展望

さらに高速化をして、処理能力を向上させる方法として、パラレル方式(同時並列処理)が考えられます。1台のセルソーターCell Sorterに複数のソーティング部SortingModuleを内蔵し、超高速演算処理部は共有します。秒70,000個の2倍、3倍の処理が可能になります。