Ⅴ.フロー系

流体力学的絞込み

セルアナライザーの場合

液中の細胞が1個ずつ順番に流れる状態を作らなければなりません。それを行うのがフロー系で、フローセル(Flow Cell)がその中心になります。
フローセルは流体力学に基づいて設計されており、フローセルの中でサンプル浮遊液の流れ(Sample Flow)とシース液の流れ(Sheath Flow)の層流(Laminar Flow)が形成されます。シース液もサンプル液もコンプレッサなどの圧力により押し出されます。サンプル液側の圧力をシース液側の圧力よりわずかに低い状態にすると、サンプル液は、シース液との層流を作る段階で流体力学的絞り込み(Hydrodynamic Focusing)が生じ、シース流に包まれたサンプル液の流径は非常に細くなり、細胞は1列に並びます。このように圧力差を調整することにより、1個1個の細胞が1列となり、1個ずつ順番にフローセル中を流れて行く状態になります。アナライザーの場合は、下から上へ流します。セルソーターの場合は、上から下に流します。集光されたレーザー光が照射されます。このレーザービームを横切るようにして細胞は1個ずつ順番に流れます。フローセルを通過したサンプル浮遊液とシース液は、アナライザーの場合は、廃液タンクに回収されます。セルソーターの場合は、液滴を作成し、電場の中を細胞を含む液滴が偏向落下して行きます。

 

1.層流

不規則な変動を含まない流れを層流と呼びます。中心の流れが最速で、端に行くほど遅くなり、速度の方向はすべて同じ向きで平行です。層流でない流れを乱流と呼びます。レイノルズ数が小さければ、すなわち、流れの速度が遅く、流れが細いと、層流になります。フローサイトメトリーは、層流を利用し、安定したサンプル流を作ります。
この層流を利用して、フローサイトメトリーは、シース液の流れの中心に、サンプルの流れを作ります。

 

マニアのための基礎知識

フローサイトメトリーの最大の特長は、この層流と流体力学的絞り込みを利用して、流れ(層流)の中心にサンプルの一列の細い流れ(層流)を作る点です。その結果、サンプルは常に一点を通過するため、高感度かつ高分解能、高速での測定が可能になりました。 キャピラリー方式は、シース液を用いず、100ミクロンほどの細いフローセルにサン プル液のみを流します。 そのため、広い範囲にレーザー光を照射し、広い範囲の光を集光する必要があります。 近年、画期的な絞込み方法が、Los Alamos研究所のグループによって報告されておりま す。Acoustic Focusing(音響絞り込み)と呼ばれる方法で、超音波を用いて、流れ(層 流)の中心に、粒子を集める方法です。シース液を必要とせず、一列のサンプルの流れを 中心に作ることができます。低濃度のサンプルの高速測定や、高い測定分解能が期待され ます。

 

2.フローセル

フローセルは、2種類に大別されます。

クオーツキュベットフローセル(Sense in Quartz方式)

断面が四方形の細長いクォーツ製の中空チャンバで、レーザー光を透過し、サンプル浮遊液中の細胞に、レーザー光を照射します。この方式をSense in Quartz方式と呼び、高感度で検出できるため、小型低出力空冷レーザー搭載の機種はすべてこの方式を採用しています。
サンプル浮遊液は、細長い金属チューブ(サンプルインサーションロッド)を介してシース流の中央に注入されます。フローセル中を、セルアナライザーは、気泡の影響を受けないように下から上に、セルソーターは細胞を分取するために、上から下に、サンプル浮遊液とシース液を流します。シース圧はコントロールされ、流れの向きがすべて同じ安定した液流、すなわち層流を形成します。サンプル圧により、シース液の流れの中央にサンプル浮遊液を注入します。その際にシース圧に比べてサンプル圧を少し低くかけることで、流体力学的絞り込みが行われ、細胞が一列に流れます。フローセル中におけるサンプル浮遊液とシース液の流れは層流を形成し、混じり合うことはありません。フローセル内部は入口からレーザー照射部にむけて、次第に幅が狭くなりレーザー照射部では四方形(内径250μmまたは430x180μm)になります。フローセル内で発する微弱な蛍光を測定するため、フローサイトメーターのクオーツキュベットフローセルは、集光レンズが取りつけられているタイプと、油浸を用いるタイプがあり、微弱な蛍光を効率良く集光し、検出器に導きます。
キュベットフローセル方式セルソーターの場合、レーザー照射部を通過した後、シース液とサンプルは、さらに絞り込まれ、流速を増し、直径100μmまたは70μmの円形ノズルから大気中に噴射され、落下して液滴になり、ソーティングされます。

 

フローセル(Jet in Air方式)

一般にJet in Air方式セルソーターに用いられます。シース液とサンプルは通常、直径100μmまたは70μmに絞り込まれ、高速の流れのまま円形ノズルから大気中に噴射されます。その直後に、レーザー光が液流に照射され、細胞からの散乱光や蛍光が検出されます。その後、流速が変わることなく液滴になり、ソーティングされます。Sense in Quartz方式と比べて、出力の大きなレーザーを必要とします。

 

 

3.シース圧とサンプル圧

セルソーターの場合

シース圧を変えることにより、フローセル内をサンプルが通過する速度が変わります。通常は固定です。
シース圧とサンプル圧の差(差圧)により、試験管内のサンプルが流れる速度、すなわち測定速度が決まります。
サンプル浮遊液を多量に供給すると、サンプル浮遊流の絞込みは少なくなります。これにより、サンプルの流れの幅は太くなるので、測定速度は上がりますが、検出位置のバラツキが大きくなり、測定分解能が下がります。機種によっては、数え落しの頻度が増大します。
サンプル浮遊液を少し供給すると、絞込みが大きくなり、分解能は向上しますが、測定速度は遅くなり、同じ細胞数を測定するのならば、測定時間が長くなります。
細胞周期測定などの蛍光測定分解能が重要なアプリケーションの場合、サンプル圧を低くして、差圧を大きくし、絞り込みが大きくなるようにすると、良いデータが得られます。

 

サンプルフローレートを高くすると、サンプル浮遊流の絞り込みが小さくなり、太い流れになります。
サンプル濃度が高い場合、同時通過の誤差が増大します。さらに、中心からはずれた細胞が分解能を低下させます。

注)実際は、中心を流れる細胞と比べて、端を流れる細胞は流速が遅くなります。

マニアのための基礎知識

希少細胞(例えば、1万個に1個の目的細胞)の測定や、マルチカラー(6カラー以上)の測定の場合、測定精度と検出感度を向上させるために、多くの細胞数を測定する必要があります。短時間に行うためには、測定速度(細胞数/秒)を速くする必要があります。しかし、上記のように、サンプル供給量(Sample Flow Rate)を高くすると、測定分解能が低下し、さらに、同時通過誤差が増大し、細胞の数え落としを生じます。その解決策として、シース流の速度を速める方法があります。高い測定分解能と、同時通過の無い正確な測定が実現できます。この場合、高速処理の回路が必要になります。

シースフローレートを高くすれば、サンプルフローレートが高い場合でも、同時通過のない、一列のサンプルの流れを作ることができます。

最近、新たな解決策として、レーザー光線を小さく絞って、左右に走査する方法が提案されました。これにより、従来のシース流の速度でも、細胞の同時通過を見過ごすことなく、正確に測定できます。この場合は、より複雑な高速処理の回路が必要になります。測定分解能の向上には、さらに光学系の改良が必要でしょう。

走査型の場合、ひとつの細胞に数回、レーザー光が照射されます。