FCMの原理入門講座

Ⅲ.フローサイトメトリーの概要

1特徴

フローサイトメトリーは、サンプル中に存在する細胞や細菌などの特性を、光や蛍光色素などを利用して1個ずつ、
迅速かつ高感度に測定する方法です。蛍光を測定する標準的な方法の蛍光顕微鏡と比べて、次のような特徴があります。

  1. 短時間に多くの細胞数を客観的に測定できる。(高速性、正確性)
  2. 微弱な光でも測定できる。(高感度、定量性)
  3. 同一条件での測定が可能である。(高再現性)
  4. 1回の測定で多くの情報(マルチパラメータ)を取得できる。
  5. 目的の細胞集団によるクラスター分析が可能である。
  6. 特定の細胞の高速分取(ソーティング)ができる。

2製品分類

フローサイトメーターは、機能的な特徴から大きく4つの製品群に分けられます。

セルソーター(自動細胞解析分取装置)

研究に合わせたレーザーの増設など機能の拡張性を持ち、同時に2種類から6種類の目的細胞集団の高速分取が可能です。分取方式による細胞分取速度の違いにより、高速タイプ(キュベットフローセル方式)と超高速タイプ(ジェットインエア方式)に分けられます。拡張機能として、マイクロタイタープレートの各ウエルに分取することも可能です。

  • MoFlo Astrios EQ  (ジェットインエア方式)
  • MoFlo XDP  (ジェットインエア方式)
  • FACSAria (キュベットフローセル方式)

セルアナライザー(自動細胞解析装置)

細胞の分取機能を持たない解析専用で、拡張性もやや乏しいが、小型の空冷レーザーを搭載し、コンパクトで簡便な操作でサンプル測定が可能です。オートサンプラを内蔵した機種は、すべて自動での測定解析が可能となりました。最新機種は、 高精度自動蛍光補正に対応しています。


高速型セルアナライザー

希少細胞やMRDなどの含有率の低い測定(1%~0.0001%程度)や陽性率の低いマルチカラー測定では、100万個以上の測定が必要です。高速型フローサイトメーターは1秒間に5万個以上のスピードで測定可能です。1,000万個の細胞を3分足らずで測定できる高精度な測定が可能です。

FACSはBecton Dickinson社の商標です。

3サンプル

フローサイトメーターで測定可能なサンプルは、1個づつの状態の細胞や粒子などの浮遊液であることが必要です。この条件を満たしていれば、通常のシステムの場合、個々の大きさが 40μm(※1)位までの範囲であれば、様々なものが測定可能です。


  • 血球細胞(白血球、赤血球、血小板など)
  • 動物細胞(培養細胞、単離組織など)
  • 植物細胞
  • 微生物(細菌、原虫など)
  • 海洋生物(プランクトンなど)
  • 精子、酵母など
  • ラテックスビーズ(マルチプレックスによるサイトカイン定量解析など)

この章では、血球および動物細胞を念頭にご説明します。
サンプルは、細胞浮遊液(液中に細胞が1個ずつ分離・浮遊しているもの)を用います。
凝集塊は、細胞が通過するフローセルを詰まらせる原因になります。

※1
測定可能な細胞径(直径)は約0.3μmから40μmです。蛍光のみの測定ならば、分子レベルのものから直径40μmまで
の粒子の測定が可能です。 フローセルノズルを交換できる機種は、最大200μm程度のサンプルまで測定できます。
一般的に、解析に最適な細胞濃度は1×106~5×106個/mLです。


4散乱光

散乱とは、レーザー光が細胞などの微小な粒子に当たって、すべての方向にレーザー光と同じ波長の光を発する現象です。
その強さは、細胞や粒子の大きさとその散乱方向に依存します。

前方散乱光:FS

レーザー光の軸に対して前方向の小さい角度(例 1.5°~19°)で散乱する光を前方散乱光またはFS(Forward Scatter)と呼びます。FSは細胞表面で生じるレーザー光の散乱光や回折光、屈折光からなります。サンプルの大きさに関する情報が得られます。細胞表面の状態、核の形状や有無、細胞の形、その通過方向など多くの要因に影響されます。

側方散乱光:SS

レーザー光の軸に対して約90°の角度で散乱する光を側方散乱光またはSS(Side Scatter)と呼びます。SSは細胞内顆粒や核等で生じるレーザー光の散乱光で、細胞の内部構造に関連します。前方散乱光と比べて、はるかに微弱な光です。


5蛍光

蛍光色素がレーザー光により励起され、そのエネルギーの一部を吸収し、残りのエネルギーを発光します。この光を蛍光またはFL(Fluorescence)と呼びます。蛍光は、レーザー光よりも長い波長の光です。使用する蛍光色素により蛍光波長が異なり、細胞の様々な情報を示します。たとえば、モノクローナル抗体に結合したFITCと呼ばれる蛍光色素は、488nmのレーザー光で励起され、525nm付近の緑色の蛍光を発します。この蛍光の強度は、細胞における特定の抗原の量を示します。また、PI(Propidium Iodide)という蛍光色素は、細胞中のDNAに結合し、488nmの光で励起され、主に610nm付近の赤い蛍光を発します。この蛍光量(蛍光強度)はDNA含量(核の総DNA量)を示します。GFPなどの蛍光タンパクも蛍光を発します。


6測定パラメータ

フローサイトメーターで測定可能なパラメータは、次のようなパラメータです。これらのパラメータは解析と分取の両方で使用可能です。各パラメータには、リニアスケールとログスケールのパラメータがあります。

  • 前方散乱光(Forward Scatter、FS)=細胞の大きさの目安
  • 側方散乱光(Side Scatter、SS)=細胞内部の複雑さ
  • 蛍光(Fluorescence、FL)
  • RATIO(比率)=2つのパラメータの比率 例:蛍光1/蛍光2、蛍光/細胞容積
  • TIME(時間)=測定時間(経時変化)

一般的な蛍光色素の例を示します。(488nm励起)

緑色 FITC、TO、Fluo-3、 GFPなど
オレンジ色 PEなど
赤色 ECD、PIなど
濃赤色 PC5、7AADなど
黒赤色 PC7など

蛍光強度により細胞表面抗原や、DNA量、RNA量などが測定できます。

これらのパラメータは、目的に応じて、選択されます。通常、フローサイトメーターは、これらのパラメータの中から、同時に8個から16個のパラメータを取得して解析・分取することが可能です。

代表的なアプリケーション例を表1に示します。


7アプリケーション

アプリケーションは、使用する測定パラメータと蛍光色素とサンプルで決定されます。様々なサンプル調製方法、染色法があります。

代表的なアプリケーション例を表1に示します。

表1:アプリケーション例
アプリケーション サンプル サンプル調製
(詳細は試薬添付の説明書を
お読みください)
計測対象 使用パラメータ
細胞表面抗原
(細胞内抗原)
陽性率、抗原量、抗原密度
全血
バフィーコート
単核細胞
分離組織
血小板
TQ-Prep
全血ライジングキット
Ficol
IntraPrep
抗体
詳しくはこちら
細胞の大きさと構造

FITC、PE、PC5や
深紅色の蛍光

前方散乱光(FS)
側方散乱光(SS)
Log FL(ログ蛍光)
核酸
(細胞周期)
(アポトーシス)
(細胞増殖)
全血
分離組織
凍結切片
パラフィン包埋切片
生体液
各種染色法
DAPI
ヨウ化プロピジウム(PI)
などの蛍光色素
細胞の大きさと構造

緑、赤、橙色の蛍光

前方散乱光(FS)
側方散乱光(SS)
FL(蛍光)
カイネティクス
(細胞内イオン濃度)
全血
バフィーコート
単核細胞
組織培養細胞
各種方法
Indo-1、SBIF
Fluo-3などの蛍光色素
細胞の大きさと構造
蛍光
比率
時間
前方散乱光(FS)
側方散乱光(SS)
FL、Log FL
Ratio
Time
細胞機能 全血
バフィーコート
単核細胞
組織培養細胞
各種方法
DCFH-DA
DiO-3
FDA、アネキシンⅤ
GFPなどの蛍光色素
細胞の大きさと構造
蛍光
前方散乱光(FS)
FL
側方散乱光(SS)
可溶成分濃度定量
(ビーズ アッセイ法)
ビーズ 各種方法
PE、濃赤色(ビーズ)
ビーズの大きさ
蛍光
前方散乱光(FS)
Log FL

8測定手順

フローサイトメーター(セルアナライザーの場合)の一般的な測定手順を紹介します。

  1. フローサイトメーターの電源をONにします。レーザーも自動的にONになります。自動スタートアップ&洗浄サイクルが開始されます。
  2. 5分から15分後、ディスプレイにReadyが表示されます。
  3. 精度管理を行います。
    まず、機器の分解能と感度を、標準粒子を用いてCheckします。その結果と機器設定値を記録します(X-R管理図に自動プロットされる機種もあります)。
    • 分解能用標準粒子(蛍光とサイズが均一なラテックスビーズ)で、蛍光と前方散乱光のCV値をCheck
    • 感度用標準粒子(蛍光強度がFITCやPEの一般的な免疫蛍光強度に近く、大きさもリンパ球に近いラテックスビーズ)で、蛍光強度のピーク位置をCheck
  4. コントロールサンプル(標準培養細胞や標準血球など)がある場合は、試薬やプロセスをCheckするために、これをサンプル調製し、測定します。その結果を記録します。(X-R管理図に自動プロットされる機種もあります)
  5. サンプル測定を行います。多くのフローサイトメーターは、測定条件や解析条件をプロトコルファイルとして記憶していますので、これを呼び出し、測定を開始します。
  6. 必要ならば、感度調整、ゲートエリア調整、蛍光補正を行います(これらをすべて自動で行う機種もあります)。
  7. オートサンプラーを内蔵し完全自動プログラムも搭載したフローサイトメーターは、サンプルをセットしたら、終了するまで、測定者は他の仕事をすることができます。洗浄や攪拌操作を含めて、1サンプルを約40秒から1分ぐらいで自動測定し解析します。すべてのデータはディスクに自動記憶され、必要ならば解析結果を自動印字できます。EXCELにエクスポートしたり、ネットワークで転送することも可能です。
  8. すべての測定が終了したら、印字された解析結果またはディスプレイのデータを確認します。
  9. 必要ならば、リストモードデータを用いて、再解析を行います。
  10. 終了したら、洗浄剤入りのサンプルチューブをセットします。
  11. Shut Downボタンを押します。