フローサイトメトリーは、サンプル中に存在する細胞や細菌などの特性を、光や蛍光色素などを利用して1個ずつ、
迅速かつ高感度に測定する方法です。蛍光を測定する標準的な方法の蛍光顕微鏡と比べて、次のような特徴があります。
フローサイトメーターは、機能的な特徴から大きく4つの製品群に分けられます。
研究に合わせたレーザーの増設など機能の拡張性を持ち、同時に2種類から6種類の目的細胞集団の高速分取が可能です。分取方式による細胞分取速度の違いにより、高速タイプ(キュベットフローセル方式)と超高速タイプ(ジェットインエア方式)に分けられます。拡張機能として、マイクロタイタープレートの各ウエルに分取することも可能です。
細胞の分取機能を持たない解析専用で、拡張性もやや乏しいが、小型の空冷レーザーを搭載し、コンパクトで簡便な操作でサンプル測定が可能です。オートサンプラを内蔵した機種は、すべて自動での測定解析が可能となりました。最新機種は、 高精度自動蛍光補正に対応しています。
希少細胞やMRDなどの含有率の低い測定(1%~0.0001%程度)や陽性率の低いマルチカラー測定では、100万個以上の測定が必要です。高速型フローサイトメーターは1秒間に5万個以上のスピードで測定可能です。1,000万個の細胞を3分足らずで測定できる高精度な測定が可能です。
※ FACSはBecton Dickinson社の商標です。
フローサイトメーターで測定可能なサンプルは、1個づつの状態の細胞や粒子などの浮遊液であることが必要です。この条件を満たしていれば、通常のシステムの場合、個々の大きさが 40μm(※1)位までの範囲であれば、様々なものが測定可能です。
この章では、血球および動物細胞を念頭にご説明します。
サンプルは、細胞浮遊液(液中に細胞が1個ずつ分離・浮遊しているもの)を用います。
凝集塊は、細胞が通過するフローセルを詰まらせる原因になります。
※1
測定可能な細胞径(直径)は約0.3μmから40μmです。蛍光のみの測定ならば、分子レベルのものから直径40μmまで
の粒子の測定が可能です。 フローセルノズルを交換できる機種は、最大200μm程度のサンプルまで測定できます。
一般的に、解析に最適な細胞濃度は1×106~5×106個/mLです。
散乱とは、レーザー光が細胞などの微小な粒子に当たって、すべての方向にレーザー光と同じ波長の光を発する現象です。
その強さは、細胞や粒子の大きさとその散乱方向に依存します。
レーザー光の軸に対して前方向の小さい角度(例 1.5°~19°)で散乱する光を前方散乱光またはFS(Forward Scatter)と呼びます。FSは細胞表面で生じるレーザー光の散乱光や回折光、屈折光からなります。サンプルの大きさに関する情報が得られます。細胞表面の状態、核の形状や有無、細胞の形、その通過方向など多くの要因に影響されます。
レーザー光の軸に対して約90°の角度で散乱する光を側方散乱光またはSS(Side Scatter)と呼びます。SSは細胞内顆粒や核等で生じるレーザー光の散乱光で、細胞の内部構造に関連します。前方散乱光と比べて、はるかに微弱な光です。
蛍光色素がレーザー光により励起され、そのエネルギーの一部を吸収し、残りのエネルギーを発光します。この光を蛍光またはFL(Fluorescence)と呼びます。蛍光は、レーザー光よりも長い波長の光です。使用する蛍光色素により蛍光波長が異なり、細胞の様々な情報を示します。たとえば、モノクローナル抗体に結合したFITCと呼ばれる蛍光色素は、488nmのレーザー光で励起され、525nm付近の緑色の蛍光を発します。この蛍光の強度は、細胞における特定の抗原の量を示します。また、PI(Propidium Iodide)という蛍光色素は、細胞中のDNAに結合し、488nmの光で励起され、主に610nm付近の赤い蛍光を発します。この蛍光量(蛍光強度)はDNA含量(核の総DNA量)を示します。GFPなどの蛍光タンパクも蛍光を発します。
フローサイトメーターで測定可能なパラメータは、次のようなパラメータです。これらのパラメータは解析と分取の両方で使用可能です。各パラメータには、リニアスケールとログスケールのパラメータがあります。
一般的な蛍光色素の例を示します。(488nm励起)
緑色 | FITC、TO、Fluo-3、 GFPなど |
---|---|
オレンジ色 | PEなど |
赤色 | ECD、PIなど |
濃赤色 | PC5、7AADなど |
黒赤色 | PC7など |
蛍光強度により細胞表面抗原や、DNA量、RNA量などが測定できます。
これらのパラメータは、目的に応じて、選択されます。通常、フローサイトメーターは、これらのパラメータの中から、同時に8個から16個のパラメータを取得して解析・分取することが可能です。
※ 代表的なアプリケーション例を表1に示します。
アプリケーションは、使用する測定パラメータと蛍光色素とサンプルで決定されます。様々なサンプル調製方法、染色法があります。
代表的なアプリケーション例を表1に示します。
表1:アプリケーション例アプリケーション | サンプル | サンプル調製 (詳細は試薬添付の説明書を お読みください) |
計測対象 | 使用パラメータ |
---|---|---|---|---|
細胞表面抗原 (細胞内抗原) 陽性率、抗原量、抗原密度 |
全血 バフィーコート 単核細胞 分離組織 血小板 |
TQ-Prep 全血ライジングキット Ficol IntraPrep 抗体 詳しくはこちら |
細胞の大きさと構造
FITC、PE、PC5や |
前方散乱光(FS) 側方散乱光(SS) Log FL(ログ蛍光) |
核酸 (細胞周期) (アポトーシス) (細胞増殖) |
全血 分離組織 凍結切片 パラフィン包埋切片 生体液 |
各種染色法 DAPI ヨウ化プロピジウム(PI) などの蛍光色素 |
細胞の大きさと構造
緑、赤、橙色の蛍光 |
前方散乱光(FS) 側方散乱光(SS) FL(蛍光) |
カイネティクス (細胞内イオン濃度) |
全血 バフィーコート 単核細胞 組織培養細胞 |
各種方法 Indo-1、SBIF Fluo-3などの蛍光色素 |
細胞の大きさと構造 蛍光 比率 時間 |
前方散乱光(FS) 側方散乱光(SS) FL、Log FL Ratio Time |
細胞機能 | 全血 バフィーコート 単核細胞 組織培養細胞 |
各種方法 DCFH-DA DiO-3 FDA、アネキシンⅤ GFPなどの蛍光色素 |
細胞の大きさと構造 蛍光 |
前方散乱光(FS) FL 側方散乱光(SS) |
可溶成分濃度定量 (ビーズ アッセイ法) |
ビーズ | 各種方法 PE、濃赤色(ビーズ) |
ビーズの大きさ 蛍光 |
前方散乱光(FS) Log FL |
フローサイトメーター(セルアナライザーの場合)の一般的な測定手順を紹介します。