核DNAを蛍光色素で染色し、その蛍光強度(DNA量)から細胞周期を求められます。細胞周期解析において、各期(Go/G1期, S期, G2/M期)を正確に求めるために、分解能の高い測定データが必要です。なぜならば、S期の一部がGo/G1期とG2/M期と重なるため、細胞周期解析専用プログラムを用いて、S期の割合を推量しなければなりません(図1.参照)。その際、G0/G1とG2/Mのピークが、分解能の高い、すなわちCV値の良い、鋭いピークの場合、解析誤差は最小化できます(図2.参照)。
図1.細胞周期測定データ (A:理想的なデータ、B:実際の測定データと各期)
図2. 細胞周期測定データ (A:CV値の良いデータ、B:CV値の悪いデータ)
そのためには、蛍光の分解能の高い(蛍光標準ビーズでのCV値が1%程度)フローサイトメーターが必要です。フローサイトメトリーでは、サンプルの流れを遅くし、サンプル流の幅を狭くすると、蛍光分解能は向上します。楕円光束を用いる機種は、Area(面積、積分)パルスを用いますが、検出したパルスを正確に積分する回路が重要です。なお、DNA蛍光の強度は大変強いので、蛍光感度は問題にはなりません さらに、DNA染色に使用する蛍光色素は、二重鎖DNA以外に反応しない蛍光色素が適しています。RNAやその他の物質に蛍光色素が反応すると、データの分解能が大幅に低下します。
現在、特異性の最も高い蛍光色素は、DAPIまたはHoechst33342とされています。さらに、これらは固定処理や裸核処理をしない生染色ができ、細胞の凝集も少なく、染色の手技も簡単です。しかし、UV光による励起が必要です。UVレーザーは、大型で高価なため(500万円以上)、UVレーザーを搭載したフローサイトメーターは、大型で高価(2,500万円以上)なものになります。
近年、高圧Hgアークランプを搭載した安価なフローサイトメーターが登場しました。
蛍光色素 | 最大励起波長 | 最大蛍光波長 | 説明 |
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Hoechst33342 | 343nm | 483nm | A-T特異的DNA染色、生細胞DNA染色、UV励起 |
DAPI | 345nm | 455nm | A-T特異的DNA染色、生細胞DNA染色、UV励起 |
Chromomycin A3 | 442/457nm | 575nm | G-C特異的DNA染色、440または457nm励起 |
PI | 305/536nm | 617nm | 細胞周期測定、死細胞検出、RNAにも染色 |
YOYO-1 | 491nm | 509nm | 細胞周期測定、死細胞検出、RNAにも染色 |
CPO | 488nm | 530/670nm | DNA染色(530)/RNA染色(670)、網赤血球測定 |
Pyronin Y | 540nm | 570nm | DNA染色(530)/RNA染色(670)、網赤血球測定 |
なお、BrdUを用いる方法(2カラー測定)は、S期を分離して測定することができますが、BrdUの取り込みや染色操作が煩雑です。
図3.BrdU法
DNA 複製期において thymidine の代わりに thymidine のアナログである 5-Bromo-2-deoxyuridine(BrdU)を取り込ませた細胞を抗 BrdU 抗体で検出する。