病院の臨床検査室や臨床検査センターでよく実施されているフローサイトメトリーのアプリケーションは、以下の3種類です。
①リンパ球サブセット解析
②CD34陽性細胞数の測定
③白血病/悪性リンパ腫タイピング
いずれもHIVなどの免疫疾患や、白血病などの血液疾患の診断、移植治療で非常に重要な検査となっています。
また、これらは現在の技術ではフローサイトメトリーを用いなければ分析できないものです。
フローサイトメトリーの原理につきましては、本Webサイト サイトメトリードットコム内にて、詳しく説明されています。
CD抗原などの細胞表面抗原を蛍光標識したモノクローナル抗体で標識して(Ⅵ.目印の見つけ方 -モノクローナル抗体による染色― 参照)、リンパ球サブセットそれぞれの割合や、特定サブセットの細胞数の変化を調べます。
この検査で用いられる代表的なCD抗原は、CD3(T細胞)、CD4(ヘルパーT細胞)、CD8(細胞障害性T細胞)、CD19(B細胞)、CD56(NK細胞)です。これら以外の抗原を利用して詳細なサブセット解析を行うこともあります。
また、細胞質内の抗原を染色することもあります。例えば、細胞内サイトカイン(アプリケーションノート参照)を染色することで、Th1(Type1 ヘルパーT)細胞とTh2(Type2 ヘルパーT)細胞を解析することもできます。
CD34は造血幹細胞(血液学の基礎参照)が持つ代表的な細胞表面抗原です。国際細胞療法学会(ISCT)では真の造血幹細胞はCD34陽性、CD45弱陽性で、側方散乱光は中程度以下であると提唱しています。造血幹細胞の絶対数を測定することは白血病治療において非常に重要で、体重あたり2×106個/kgの幹細胞を移植することが治療成功のために必要であるといわれています。
先に挙げた特徴を持つ細胞の絶対数を精密に測定できる技術は、モノクローナル抗体を用いたフローサイトメトリーに限られており、臨床検査における重要なアプリケーションの1つになっています。詳しくはアプリケーションノート11を参照ください。
造血幹細胞(血液学の基礎参照)は、さまざまな血液細胞(赤血球、血小板、白血球など)に分化します。白血病は、どの血液細胞が腫瘍化(がん化)したのかによって、その後の治療方針が大きく異なります。“どの細胞“といった場合、リンパ球なのか、単球なのか、T細胞なのか、B細胞なのかといった、どの系統の細胞なのかという意味と、より幼弱な細胞なのか、あるいはより成熟した細胞なのか、といった、どの成熟段階の細胞なのかという2つの意味が含まれます。
白血病タイピングはこうした2つの意味を含めて、“どんな細胞が腫瘍化しているのか“を調べる検査であるということができます。実際の検査に当たっては、リンパ球サブセット検査と同様に、さまざまな細胞表面や細胞質内に存在する抗原を蛍光標識モノクローナル抗体で染色して、対象となる白血病細胞を解析します。
詳しくは、白血病タイピング検査概論
リンパ腫タイピングは、リンパ腫の細胞を調べることになります。ただしこの場合、リンパ節の細胞が対象になるため、あらかじめ細胞が1つずつばらばらになった浮遊細胞に調製しておく必要があります。
詳しくは、FCMによる悪性リンパ腫の解析を参照してください。
これらの検査を正確に行うためには、精度管理が重要になります。コントロール血球による内部精度管理や、施設間精度管理が行われている検査である必要があります。
フローサイトメトリーの精度管理につきましては、FCMのための精度管理入門に詳しく解説されています。