3.解析方法
T細胞のクロナリティー検索は、κ/λ比などB細胞系に異常を認めない症例で、CD4+8+、CD4-8-細胞や系統抗原の欠失細胞の集団を認める場合に、T/NK細胞系の腫瘍細胞の存在が考えられる。ただし、AITLではT細胞性の腫瘍であるにも関わらず、モノクローナルなB細胞の増殖を誘導することがあるので、注意が必要である。またT-MLではCD7,3の欠失細胞や抗原減弱症例が多いことから汎Tマーカーの陽性率とヒストグラムを相互に注意深く観察する必要がある。また、T-MLはCD4細胞型が多いが、CD4細胞の増殖は反応性病変やホジキン病でも認めるため、各解析領域において細胞の構成や各系統細胞で分化抗原の発現量の観察など、総合的に判断する必要がある。また、TcRVβのレパトア解析や分子遺伝学的検索などで確認する。
背景のB細胞にも単一増殖性を認めたangioimmunoblastic T cell lymphoma
症例は65才男性。発熱と全身リンパ節腫脹。γ-Glb高値でeosinophiliaを認めた。頚部リンパ節生検にて、 CD4+,45RO+ 細胞が優位で、大型細胞領域では、CD3は2峰性で抗原減弱細胞およびCD10陽性細胞を約25%認め、AILに一致した所見であった。
しかし、B細胞はsIgλ型であった。
抗原受容体遺伝子再構成の検査においても、T細胞およびB細胞に再構成バンドを認めた。
1)CD2,3,5,7の系統抗原について
T細胞性ではこれらのすべてが陽性であるが、ATL/LLの多くはCD7陰性である。その他の病型において特異性はないが、これら系統抗原の欠失や発現不良を高頻度に認める。NK細胞性では、CD2,7陽性でCD3,5は陰性である。
2)CD4,8について
PLLやATLL、AITLなどT-MLの大部分がCD4陽性細胞であるが、中にはCD4+8+やCD4-8+の症例も散見する。また、症例によってはCD4陽性腫瘍細胞が多くを占めていても、一部にCD4+8+細胞やCD4-8+細胞にも同一クローン由来の腫瘍細胞が存在することや、検査材料によって腫瘍細胞の形質が異なることもあり、heterogeneityに気を付ける必要がある。その他、LGLLはT 細胞性でCD8陽性、NK 細胞性はCD4-8-が大部分で、一部にCD4-8+を認める。
CD4+8-,CD4+8+,CD4-8+の様々な細胞形質を認めたセザリー症候群
症例:20歳代女性 主訴:下腿浮腫 全身の丘疹
marker | 末梢血 | リンパ節 |
CD7 | 45.7 | 44.8 |
CD2 | 90.6 | 79.1 |
CD3 | 88.3 | 76.2 |
CD4 | 74.3 | 63.7 |
CD8 | 19.2 | 16.6 |
CD4+8+ | 10.0 | 5.6 |
CD10 | 0.1 | 0.6 |
CD16 | 2.3 | 0.9 |
CD56 | 2.7 | 1.7 |
CD25 | 7.8 | 21.6 |
CD20 | 4.2 | 20.2 |
HLA-DR | 79.9 | 83.8 |
末梢血とリンパ節ともに中型細胞領域に腫瘍細胞を認め、マーカーではCD4の発現がやや弱いCD4.8ダブルポジティブ細胞を約10%とCD7陰性の異常なT細胞を多く認めた。また、CD4.8陽性細胞はCD45RA弱陽性で、それらはCD7が陰性・陽性と多様性を認めた。
3)CD25,28,122,HLA-DRなどの活性化抗原について
ATLLでCD25陽性で、CD28・HLA-DRは一部で陽性、CD122が陰性である。LGLLではCD25が陰性で、CD122は陽性である。AITLは、CD28・HLA-DRは陽性である。
4)CD10について
T-MLにおいて未熟な分化段階で発現する抗原であると認識されていたが、我々が1999年以降に経験したAITLの11症例全てにCD10陽性細胞を認めた。CD10陽性細胞は、陽性率が20%以下の症例が約6割占め、その発現強度も低い症例が多くPE標識抗体でのみ検出可能な症例も存在した。また、そのCD10陽性細胞が単一な腫瘍細胞であることは、FCMによるTcRVβのレパトア解析にて確認が可能であるが、CD3陰性もしくは発現強度が低い症例には応用はできない。
一般にAITLは、腫瘍細胞が少ないのが特徴である。腫瘍細胞の割合が多く、大きさも中から大型である場合には、HE標本上 clear cell として容易に認識できるが、割合が少ないもしくは小型の場合には、反応性病変との鑑別が困難である。さらに分子遺伝学的検索においてもT細胞の単一増殖性を証明できない例も存在する。一方、疾患の頻度は以外に多く、CD10陽性T細胞が存在する場合には、多重染色にて系統抗原の欠失や発現不良の解析を行うべきである。
AITLにおけるCD10の発現状況と異常所見
5)CD30について
リンパ球の活性化抗原の一種であり、活性化T細胞およびB細胞においても発現を認めるが、その量は少なく割合も低い。一方、強発現細胞が高率に存在している場合にはALCLが最も疑われ、大型の腫瘍細胞が多数出現する症例では同定は容易である。ALCLの細胞表面形質は、CD30が大部分で陽性、その他の活性化抗原としてCD25,71,HLA-DRが陽性のことが多く、T細胞抗原はCD2,3,4,5,7,8など様々な発現を認めるが陰性であることの方が多い。しかし、ALCLはいまだに議論の多い疾患であり、CD30陰性ALCLの存在や比較的小型の細胞、さらには他のCD30陽性疾患など単純ではない。予後因子としては、良好なALK遺伝子関連群と非関連群の2つのサブタイプが存在するとされており、その他に両群の約2割の症例に発現するCD56が、独立した予後不良因子として報告されている。
ALCL 7症例の細胞表面形質
abe | CD 30 |
2 | 3 | 4 | 5 | 7 | 8 | 10 | 16 | 56 | 25 | 38 | 45 RA |
45 RO |
HLA -DR |
DNA index |
TcRγ (PCR) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
26 頚部LN | + | - | - | - | - | - | - | - | + | - | - | - | + | +/+w | 1.79 | + | |
18 LN | + | - | - | + | +w | - | - | - | - | - | - | - | -/w | + | 2.06 | + | |
55 左腋窩LN | + | + | - | - | - | + | - | - | - | - | -/+ | + | + | + | 1.00 | + | |
39 右ソケイ部LN | + | + | - | + | - | - | - | - | - | - | - | + | + | + | 2.05 | + | |
31 皮下腫瘤 | + | - | - | - | - | - | - | - | - | + | + | - | +w/- | -/+w | + | 1.86 | + |
63 ソケイ部LN | + | - | - | + | - | - | - | - | - | - | + | + | - | + | + | 1.05 | + |
70 左肩 | - | - | - | - | - | - | - | - | - | + | - | - | - | - | - | 1.21 | + |
6)CD56について
CD16と共にLGL(NK)マーカーである。顆粒リンパ球増多症(GPLD)には、単一増殖性が明らかなT細胞型とNK細胞型があり、T細胞型のTcRαβ型は貧血および好中球減少による免疫不全の精査で見つかる例や健診によるリンパ球増多の指摘が多い。一般に予後良好で、細胞形質はCD3+4-8+16+56-が大部分を占め、CD4-8-16+・CD4+8-16+・CD4+8-16-56+なども見られる。TcRγδ型は、予後不良である。NK細胞型は非進行性の慢性型(通常は単一増殖性が証明されない非腫瘍性)と急性型がある。慢性型はCD2+3-4-7+8-/+16+56+57+で、急性型はCD2+3-4-7+8-/+16-/+56+57-が多い。電顕によるアズール顆粒の超微形態の観察では。予後不良のNK-LGLLはDense granuleが主で、正常のT/NK-LGLに見られるParallel tubular arrayは欠失しており、慢性型との鑑別に役立つ可能性がある。また、nasal/nasal typeではEBVが関与するが、その他の急性型では様々である。皮膚CD4+56+リンパ腫は、WHO分類においてblastic NK-cell leukemia/lymphomaとされているが由来はNK細胞ではなく、免疫形質、IL-3反応性、分化誘導実験およびサイトカイン産生性などからNormal counterpartが plasmacytoid dendritic cellsであることが明らかにされている。また、CD30で述べたALCLの予後因子としても重要である。
皮膚CD4,56陽性pDC-lymphoma
症例(70歳代 女性)
体幹皮膚の出血様紅斑を主訴とし、脾腫および表在リンパ節腫大、さらに眼瞼結膜に貧血および黄疸を認めた。
細胞表面形質はCD2,4,7,56,40,117,123陽性で、細胞傷害性分子陰性、TCR&BCR遺伝子再構成陰性。
7)TDR-Vβレパトア解析について
T細胞レセプタ(TCR)Vβ領域のレパートリー(Vβレパトア)をFCMで測定する方法としてベックマン・コールターのIOTest Beta Mark TCR Vβレパトア解析キットがある。このキットには健常人末梢Tリンパ球のTCR Vβレパトアを70%カバーすることができる24種類の抗Vβレパトア抗体が含まれている。
8本の抗体瓶にはそれぞれ3種類ずつの抗体が入っており、FITC標識抗体とPE標識抗体がそれぞれ一種と、残る一種はFITCとPEの両方で標識してあり、2カラーで3項目のVβが同時に測定できる。8本の試験管にCD3・CD4・CD8などのPC5標識抗体や他の標識抗体を組み合わせることにより、T細胞の機能的サブセット内のVβレパトア解析が容易に行える。
このVβレパトアの偏りは、感染症や自己免疫疾患の一部で認める。悪性リンパ腫における利用として、T細胞が異常に増殖していたり、T抗原の減弱や欠失、さらにはCD10,30など異常な抗原を発現しているCD3陽性T細胞細胞分画を認めた場合に、その分画を標的としたTCRVβのレパトアの偏りを検索すると腫瘍性増殖の有無を知ることができる。特にAITLでは腫瘍細胞が少なく、腫瘍性増殖の判断に苦慮する症例が多いため威力を発揮する。
AITLの2症例
CD10陽性T細胞を標的にTCRVβレパトア解析を行い、レパトアの偏りから腫瘍性増殖を証明する。
TCR-Vβのレパトアー解析 症例1
TCR-Vβのレパトアー解析 症例2
TCR-Vβ Clonogram